2014年にちとせグループの一員として産声をあげた「株式会社タベルモ」が、17億円の資金調達を実施した。 -プレスリリースはこちら

まずはタベルモ社 代表取締役社長の佐々木に一言いただくとしよう。

-まずは今の気持ちを聞かせて下さい-

佐々木俊弥(以下、佐々木):「藻類タンパク質の世界的な普及を目指す」という目標に半歩ほど近づいた、という感覚でしょうか。更なる培養技術の開発も必要ですし、「藻を食べる」という文化の形成にも力を入れていかねばならないためまだまだ道のりは長いです。僕自身はすっかり藻を食べることが日常化しているのですが、そんな人を一人でも増やすことが、タンパク質危機を解決する一つの手段だと考えています。

これまでのタベルモ主要メンバー。左から、林(研究開発)、佐々木(社長)、桐栄(副社長)、大上(事業管理) 5月からは新生タベルモがスタートしており、続々とメンバーが増えている。

ところでタベルモって何する会社なの?という方がほとんどだと思うので、タベルモ社設立の経緯やその目的、これまでの活動状況と今後の方針を紹介する。

タベルモ設立の経緯

ちとせグループは千年先まで人類が豊かに暮らせる環境を残すために活動するバイオベンチャー企業群(※)。「バイオ技術」と「事業化技術」を武器に様々な社会課題の解決に挑戦している。
※ 2018年5月22日現在のちとせグループの企業数は7社。現在更に3社設立準備中。

その中で、近い将来訪れると想定される「タンパク質危機」という社会課題を “藻” で解決することを目指し、2014年7月に「株式会社タベルモ」を設立した。

タンパク質危機とは

世界的な人口増加と新興国のGDP増加による食生活の向上(肉食化)によって、2050年には2005年時の2倍量のタンパク質が必要になると言われている。

これまでは農業の生産性向上によって、年々増大するタンパク質需要に対応できていたが、今後はその伸びだけでは吸収できなくなり、なんと、 早ければ2030年頃には需要と供給のバランスが崩れ始めるとの予測がある。

この予測は「タンパク質危機(Protein crisis)」として最近欧米を中心に注目され始めており、近年「植物肉」や「昆虫食」、「培養肉」のベンチャー企業に資金が集まる動きが活発だが、その根本的な理由となっているのだ。

▷参考:「植物肉」が注目され資金が集まる本当の理由 -2050年の「タンパク質危機」を藻類培養が救う-

なぜ藻?なぜスピルリナ?

既存の農業では追いつかないとされるタンパク質の供給に対して、農業ができないような土地でも生産可能な “藻” 。藻は光合成のみでの増殖が可能で、単位面積あたりの生産性が非常に高い。

畑の肉と呼ばれる程タンパク質含量が高く(およそ30%)、且つ農作物の中で最もタンパク質生産性が高いとされる大豆と比べても、藻は圧倒的に高いタンパク質生産性を誇る。

そんな藻の中でもタンパク質含有量が65%(乾燥重量ベース)と圧倒的に高く、且つビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含む栄養価の高い「スピルリナ」という藻を選択した。

㈱タベルモのこれまで

ちとせグループが蓄積してきた生き物(微生物、藻、動物細胞など)を「育種」「培養」する技術に加え、スピルリナの「加工」技術を開発。これらの技術により、タンパク質が豊富で栄養価の高いスピルリナの特徴を最大限に活かした「生スピルリナ」を世界で初めて完成させた。

2015年より、社名と同じ「タベルモ(=食べる藻)」というブランド名で販売を開始。オンラインショップでの販売の他、全国100店舗以上のジュースショップ、レストランでもお取り扱いいただいている。

タベルモは今後どうなるのか?

ちとせグループの中核企業として研究開発を行なう「ちとせ研究所」が経済的かつ量産化可能で効率の良い藻の培養システム(フォトバイオリアクター:PBR)を開発。この培養システムを使うことにより、これまでよりも効率よく且つ安価にスピルリナを大量培養できる可能性が高まった。最終的には大豆の価格よりも安く作れると試算している。

タベルモは今回の資金調達により、赤道直下で太陽エネルギーが豊富なブルネイへ新工場を設立し、安価で効率の良いスピルリナ大量培養法の確立を目指す。赤道直下では、同じ面積でも5倍も高い生産性を出すことが可能だ。

これにより、タンパク質代替としてのスピルリナ製品の開発を促進し、近い将来世界的に懸念されているタンパク質不足という社会課題の解決に貢献する。

スピルリナ生産設備のイメージ図

 

資金調達を経てこれから大きく羽ばたこうとしているタベルモだが、少し初心に戻り、佐々木にそもそもなぜバイオ業界を目指したのか、どういう経緯で社長になったのかを聞いてみた。

 

-バイオの業界を志した理由はなんですか?-

佐々木:昔遊んでいた地元の川で年々魚が釣れなくなってきたことで、それが人の出すゴミや排気ガスが原因だと気づき環境問題に興味を持ちました。人と人以外の生き物がどう折り合いをつけていくべきなのかというテーマについて研究してみたいなと思っていたところ、高校時代に尊敬していた先生からバイオを勧められたんです。バイオは究明されていないことが多い分野だと聞いたことで、チャンスが多くて面白そうな分野だと感じて大学の専攻で生物学を選び、最終的には大学院で博士号を取得しました。

-その後は研究を続ける道ではなく、就職されたんですよね?- 

佐々木:はい、そうです。いずれ起業したいなと考えまして、必要な経験を積むためにも一度就職しようと考えました。就職先は、ベンチャー1本。将来的に社長になるうえで、会社の仕組みを見渡せる規模であること、中小であることに甘んじることなく、大きくなることを志し社会にインパクトを残すべく活動できそうな会社が良いなと考えていました。

-どのように就職先を決められたのですか?-

佐々木:学校の研究で、光合成で高効率に増える微生物として藻類に将来性を感じていました。ベンチャー企業で、藻類に関われる仕事が良いなと思っていたところ、巡り合ったのがちとせグループです。光合成で千年先も持続可能な物質循環を作り出したいというグループの理念を聞き、目指すところが自分と似ているなと感じました。

また、商売は理念だけではなく、ちゃんとお金を稼がないと立ちいかないと思っているのですが、ちとせグループ代表の藤田の話を聞くと「商売をきちんと成り立たせようとする」ベンチャー精神を強く感じました。そこで、グループの母体である株式会社ちとせ研究所(旧ネオ・モルガン研究所)に入社しました。

-どんな経緯でタベルモの社長に就任されたんですか?-

佐々木:2014年の春、静岡県掛川市のタベルモ生産工場の近くに家を借り、ほぼ住み込みのような状態で生産体制の確立に奮闘していました。そこへグループCEOの藤田がわざわざ会いに来て、タベルモ社を任せようと思うと言われたんです。正直、自分には少し早いと感じましたが、覚悟を決めた後はすぐにスイッチが切り替わりました。従業員ではなく、経営者として、試合に出なければいつまでも経営が上達しないと考え、やると決断しました。

-藤田さん、なぜ佐々木さんを社長に任命したのですか?-

ちとせグループCEO 藤田朋宏:佐々木にとっては恩師で、私も以前から懇意にさせていただいている奈良先端科学技術大学院大学の高木教授から「うちの博士課程の学生が御社に興味があるみたいだよ。」と佐々木を紹介された時から、この男は適切なポジションを与えらればそこに合わせるように伸びようとするタイプだなぁと感じていました。社長業は、いろいろな立場の人から、いろいろなことを言われ続ける仕事です。佐々木と何年か働いているうちに、佐々木の、いろいろな人の意見を全てフラットに聞いた上で、自分としての結論を毎回ゼロから考えて出そうとする姿勢が社長向きだなと思っていました。佐々木は、タベルモ事業には初期から関わっていたうちの一人だし、佐々木が社長になることは自然な判断だったので、こうして「何故、佐々木を社長に指名しようと思ったのか?」と改めて問われると、「なんでだろね(笑)」と返したくなりますね(笑)

ちとせグループには社長が社長を育てるというユニークな仕組みがある。佐々木は、ちとせグループとして代表的な「社長に育てられた社長」かもしれない。

タベルモ代表の佐々木とちとせグループ代表の藤田

-最後に、佐々木さんから一言お願いします-

佐々木:環境破壊が進む、エネルギーが無くなるという恐怖と未来の閉塞感は、私の気持ちに影を落とし続けました。子どものころ発電機を回して得た電力で発電機を回す永久機関を空想したり、ゲルマニウムラジオを見て宇宙からの太陽光電力の送電を構想していました。行き着いた先がスピルリナによる光合成なだけで、こうして振り返るとやりたいことは変わっていないものです。

はじめは軽はずみに自由を得られると思って社長になりたいと言葉にしてみたらそれが叶ってしまいました。多くの制約もある中で、自分で決めて良いことが増えていくと、自由を用いることの難しさに気づかされます。ゴールの設定も自由なので、そもそも自分が何をしたいのかを最初に見つめ直さなければなりません。船に例えれば地図、コンパス、エンジンetc、どの要素も自分だけでは足りないから仲間を募りますが、どう集め、連携し、高め合うのか。技術も経験も運も必要で、答えが十人十色な、だからこそ魅力的な仕事です。

緑の革命で食糧問題は克服されたと思われていますが決してそうではありません。我々が生きている時代は大丈夫かもしれませんが、その先は? 生きるのがそれなりにやっとな生活な中で、先の世代のことを考えて実行までするというのは大変なことですが、皆それぞれの分野で人類の可能性を拡張させているのが仕事というものだと考えています。

ですので、私は、私なりの航路で、スピルリナをタンパク質源として、「肉」や「魚」と同等以上の美味しい食べ物を作り、生活にスピルリナが馴染むことを目指します。

こんな未来はもうすぐそこなのかもしれない

 

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