これは、ちとせグループ代表の藤田が2008年頃にちとせグループの前身であるネオ・モルガン研究所(現ちとせ研究所)のWEBサイトに掲載した文章です。15年経った2023年の今でも色褪せることのない、ちとせグループの活動における基本の考え方になっています。

生物を利用するための二つの考え方

世界中の人々が、バイオテクノロジーが生み出す未来に期待していることに疑いの余地はありません。その期待に応えるためには、世界中の研究室で生み出さている技術の種を吟味し、人々の生活で実際に活用できるように花開かせるための努力が必要になりますが、その努力の進め方には二つの考え方があります。

一つの考え方は、生命現象の多くがまだまだブラックボックスの中にありますが、このブラックボックスを解き明かし、人間が生物を完全にコントロールしたシステムを構築しなければならないと考えるのが現在主流になっている考え方です。
もう一つの考え方は、今の科学技術では生命現象の全てを理解することは難しいという事実を受け入れた上で、生物を人間の為に活用できるシステムを構築するという考え方です。

現在、生命科学技術発展の為の研究資金のほぼ全てが、前者の考え方を実現するシステムの構築に対して投資されています。 しかし、生物を利用した様々な活動(農業、食品、化学、製薬)において、これまでに実際人々の生活を豊かにし、大きな経済価値を生んでいるのは後者の考え方で構築されたシステムだけであるという事実には、どういうわけかあまり注意が払われていません。

生物を生物のまま利用するために

右の図は、トウモロコシの原種と現在のトウモロコシです。
もし、トウモロコシが原種のままだったら今のように人類は繁栄していたでしょうか。もちろん答えは否です。
また、現在のトウモロコシへと品種改良をした結果、どの遺伝子がどのように変化しその代謝系がどのように変化したのか、人間は全てを完全に理解した上で利用しているのでしょうか。もちろんこちらも答えは否です。
人類に今の繁栄をもたらした生物の一つであるトウモロコシは、人間が管理している畑の外、つまり自然の草原の中では他の雑草との生存競争に破れてしまい、優占種として生育することは不可能です。

では、なぜトウモロコシはこのような生存競争に勝てない弱い生物に姿を変えたのでしょうか。 この現象をトウモロコシ側の視点で考えると、トウモロコシは人間にとって役に立つ生物に形を変え、人間に大量に栽培してもらうことで、より多くの子孫を残すという強かな生存戦略を選択した生物であるとも言えるというのが我々の考え方です。

生物を生物のまま利用するために、我々は生物が生きようとする力、環境に適用しようとする力にもっと謙虚に注目するべきであると考えます。

人間側の視点でみた勝手な理屈だけを生物に押し付けるのではなく、生物を生物として受け入れ、自然に対して謙虚に、人類と他の生物が共に地球環境を維持する世界を作ること。

我々はバイオ領域での技術開発を通じて、技術の種を社会で花開かせるための活動はどうあるべきかを常に追求しています。

 

ちとせグループ代表 藤田朋宏