この度、ちとせグループ10周年記念として「藻類を漉き込んだ特製和紙」で折り鶴を制作しました。

ちとせの事業に欠かせない「藻類」と、ちとせのシンボルである「折り鶴」を組み合わせるという迷いなさすぎる直球、しかしこれ以上ちとせグループ10周年を表現するに相応しいオブジェは他にないのではないでしょうか。

今回この特別な折り鶴制作を手掛けさせていただきました、2021年度入社の切江と申します。この記事では制作に至った経緯や制作工程を紹介します。

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ちとせのグループ10周年記念オブジェ「玉藻鶴」

 

藻類と和紙の可能性に込める想い

ちとせグループでは、千年先まで人類の生活が豊かになることを目標に、MATSURIをはじめとする様々な技術開発・事業展開をしています。そうした一連の試みを継続する中で、十年というひとまとまりの時間を堆積させるに至りました。

十年という時間は我々ちとせが見据える千年という時間(いわば文明のスケールと言えるでしょう)のうちのたった1%ですが、ひとの一生の中では大きな意味を持つ時間です。人生と文明と言えば遠大な対比ですが、遠大であるからこそ見つめなければならない関係でもあります。つまり文明もまた私たちの生活の蓄積なのです。10周年という時間を記念するものを制作するにあたり、まさにその点に気づかせてくれるような作品にしたいと思いました。

示唆的なことに、我々ちとせグループのシンボルは「折り鶴」です。折り鶴は何かを記念し、祈念するための伝統的かつ象徴的な制作物です。また「鶴は千年」という言葉からも連想できるように来るべき時を言祝ぐ存在でもあります。そのため、10周年の制作物にはちとせの写身である「折り鶴」を然るべきマテリアルである「藻」と「和紙」で制作することがふさわしいと考えました。

ちとせグループでは前出のMATSURIをはじめ、様々なプロジェクトで藻類の力を借りています。光合成を起点にして既存の産業を持続可能なかたちに換骨奪胎していく、その要こそが藻類です。ここにはちとせグループの最も挑戦的な部分が現れていると言えます。

和紙は千年以上続く長い伝統の中で高い機能性と美的な特質の両方を磨き上げてきた素材です。人々に親しまれる豊かな風合いと、優れた実用性を兼ね備えている点もちとせが目指したい技術のあり方にぴったりです。

そこで今回は「藻類を漉き込んだ特別な和紙」を作り、これを折り鶴に折り上げて記念品とすることにしました。ちとせではこの特別な和紙を「玉藻紙」、折り鶴を「玉藻鶴」と名付けました。「玉藻」は藻の美称であり、紙に漉き込んだ緑藻クラミドモナスは球形であることがその由来です。

伝統の継承者達とともに

藻類と和紙を掛け合わせて折り鶴を作るというアイディアは、シンプルながら必ずしも容易に実現するものではありません。ちとせには藻類の専門家はいますが、10周年にふさわしい和紙を作るには、和紙の扱いに習熟したプロフェッショナルの力が必要です。

そこで「玉藻紙」を制作するため東京都立川市で紙製品のデザインから販売までを手掛けている福永紙工さまに相談したところ、福井県越前市で和紙の販売をされている杉原商店さまと、越前和紙を製造している五十嵐製紙さまをご紹介いただきました。

実際の和紙づくりを見学させていただけるとのことで私含めたちとせの社員3名で福井県越前市を尋ねました。

杉原商店さまの店構え

なんと言っても存在感を放つのが、門をくぐった先に口を開ける蔵の佇まいでした。内部には重厚ながらもモダンな空間が広がり、和紙がほのやかな光を演出していました。大正時代に竣工された蔵とのことで、どことなく感じる叙情はそこに由来するのかもしれません。

蔵の内装

五十嵐製紙さまの作業場に移動した後、藻類サンプル(今回はクラミドモナスを使用)の状態を観察しながら作業の確認を行いました。はじめに、工芸士の五十嵐さんがちとせ藻類チームの専門家とともに漉き込み方や漉き込む量を検討していきます。分量を決めると楮(コウゾ)やネリ(トロロアオイ)といった植物由来の素材を混ぜ合わせ、型枠に流し込みます。

手漉きによる和紙作り

型枠の中に流し入れた紙の溶液を均して天日で干すことで、和紙が完成します。この溶液の状態は、作りたい和紙の特性だけでなく季節によっても左右されます。また人工的な代替品ではなく昔ながらの天然の素材を用いた方が質の高いものになりますが、一方で素材の特性を理解するのに習熟が必要だそうです。

和紙づくりの後、今回藻類を漉き込んだ和紙を手掛ける中で感じたことや日々の和紙づくりについて、杉原商店の杉原さんと五十嵐製紙の五十嵐さんにインタビューをさせていただきました。こちらについては後日みなさまのお目にかけたいと思います。

インタビューの様子。内容は後日お楽しみに!

数日後に藻類和紙が完成し、ちとせグループのオフィスに到着。「ちとせで折り鶴が一番上手い」と評判の社員が召集され、特製和紙で折り鶴を折っていきます。実は今回の和紙は90センチ×90センチもあり、かなりの迫力でした。

折り鶴を折っている様子

出来上がった玉藻鶴は10月にパシフィコ横浜で開催されたバイオ・医薬系の企業展示会であるBioJapanのちとせブースにてお披露目しました。多くの来場者が玉藻鶴の前で足を止め、中には写真に収めていく方々も見られました。

今後も引き続き、和紙という表情豊かな素材と藻類の取り合わせのもつ可能性を模索していきたいと考えています。

BioJapanでの展示

 

歴史と文化への敬意を未来へ繋ぐ

近年、バイオエコノミーという言葉をよく目にするようになりましたが、考えてみれば「バイオ(=生物由来)」な製品は昔から存在しています。今回の楮やトロロアオイといった様々な植物から作られる和紙も、古典的な機能性バイオマテリアルとも言えるでしょう。
それらがエコノミーの主流ではなくなったのはむしろこの百年ちょっとのことに過ぎません。

越前和紙には千五百年の歴史があります。ちとせのスローガンでは千年先の社会を見据えていますが、それを遥かに五百年も超過する時間を蓄積してきた技術だということです。千年先まで豊かに暮らす為に事業や技術を育んでいるちとせグループの想いは、偉大な先達である越前和紙のように人々に受け継がれていくことができるでしょうか?

文化への畏敬を忘れないようにしたいものです。

その他、10周年記念に関する取り組みは特設サイトにて公開中です。
ぜひご覧ください!