12月17~18日の2日間、名古屋大学にて『岡崎フラグメントー不連続DNA複製モデル 50周年記念国際シンポジウム』が開催され、招待講演を行ってきました。岡崎フラグメントの発見は不均衡進化理論の基となった研究ですから、私にとって最重要クラスの学会です。期待をもって参加しました。

『Okazaki fragment drives evolution: 岡崎フラグメントは進化を駆動する』と題して講演し、「岡崎断片は進化を駆動する。そして、その駆動力はDNAの連続鎖・不連続鎖間の忠誠度の差に由来する」という結語にしました。ロビーでの反応から判断して、内容は正確に伝わったと思っています。

全部で18の口演と12のポスター発表がありましたが、全体を通して進化を意識した発表は、九州大学の石野良純博士(ゲノム編集で有名なCRISPR/Cas9の発見者)を除いて皆無でした。石野博士のテーマは耐熱性の古細菌のDNAポリメラーゼコンプレックスの分子構造の解析についてであり、その構造が大腸菌(真正細菌)よりも、むしろヒト(真核生物)に近いということを示唆していました。つまり、古細菌が生物の大元であるという説を裏付けたことになります。他の多くの発表はDNA複製の分子機構に関するものであり、おそらくここ数年で不連続鎖の合成機構は完全に解明されるでしょう。

しかし、このシンポジウムに自身の立ち位置を期待して参加した私としては少し期待外れでした。現在主流の進化遺伝学は、集団内の遺伝子浮動と自然選択を進化の原動力と捉えています。従って、私は常々孤独感を味わっていました。今回のシンポジウムに参加しても、やはり状況は変わりませんでした。

更に付け加えますと、なぜ生物はDNA複製の際に例外なくこうも複雑でコスト高なシステムを使っているのでしょうか?この疑問に言及した演者が一人もいなかったのは不思議と言えば不思議なことです。ここで、不連続鎖発見当時の質疑応答での渡辺格先生の言葉を想い出しました。“生物は連続鎖の方で生きていて、不連続鎖の情報は使っていない。つまり、不連続鎖はダミーである”(第8回古澤コラム参照)。発見当初、渡辺先生は不連続鎖には生物学的意義をあまり認めておられなかったようです。勿論、現在では連続鎖・不連続鎖に関わらず遺伝子は正常に活動することは周知の事実です。不連続鎖には、進化以外に何か未知の生物学的意義が隠されているのかも知れません。

前出の石野博士は不均衡変異の研究が始まった頃の共同研究者でもありましたので、昼食を共にしながら旧交を温めることができました。今頃の若い研究者には哲学が欠けていると言う点で話が盛り上がりました。一度機会を作り、石野研究室の学生さんを交えて「サイエンスと哲学」と題したアルコール付放談会をやろうという事になりました。来春ぐらいになるでしょうか。

ところで出席者の皆さんは私がちとせ研究所の社長であると思い込んでおられるようで、「私どもの会社の社長です」と釘宮代表取締役を紹介すると、意外やはんなりとした女性が現れたので、大いに驚かれ話が弾みました。とても楽しく、いい光景でした。

2018年12月24日
古澤 満

●第1回〜35回まではこちらから、第36回~はこちらからお読みいただけます。
●本コラムで述べられている「不均衡進化説」については、こちらも併せてお読みください。