先週6日間ほどインドに行ってきました。整理と混沌のバランスをいつも意識していると第二回で書いた藤田にとって、インドという国は想像以上にとても興味深い国でした。一般的に日本人がイメージしているほど過剰に混沌側に偏った国ではないし、むしろ日本人よりも整理と混沌のバランスとそのあり方についてとても深く考え続けているのがインド人なのだというのが、たった6日間の滞在ですがよくわかりました。

インド人とは対照的に、現在の日本人は混沌を少しでも減らしてとことんまで整理し続けることがあるべき正解だと思っている人が多い気がします。そういう価値観の方に整理と混沌のバランスが大事なのでは?と意見すると必ず「世間知らず。」「MBAに行け。」などと頭ごなしに怒られて否定されます。いくつになっても、整理だけが正義だよ教の人に「バランスが大事なのでは?」と言っても怒られるだけなのがわかっているのに、それでも言っちゃう性格なのは直せません(笑)

整理と混沌のバランスが大事と言っても、何も私は組織の全ての部分のバランスを均一にするのが正しいとは思ってはいません。20年近く前に私がコンサルタントの仕事をしていた頃に発電所の目標設定や人事評価指標を作る仕事をしたことがあるのですが、発電所に混沌を持ち込んではいけません。発電所のような業務の場合、個人の意志や個人の判断は極力排除して、仕事の全てが綺麗に整えられたマニュアル通りに遂行することを良しとする組織で当たらないと危険だからです。(とはいえ、そういう価値観で作られた組織が、マニュアルを作ったときに全く想定していなかった事象に対峙しないといけないようなことが起こると・・・)

発電所は世の中でも極端な例にはなりますが、やり方がある程度確立している業務を行う組織においては、可能な限り業務をマニュアル化し、誰がやっても同じ品質を提供できる組織構造を作ること、つまり「整理すること」がビジネスを「広げる」ことに繋がります。マクドナルドやスターバックスが世界を制したのも、その業務を世界の多くの人でも対応できるようなマニュアルに整理するのが極めて上手だったことが大きな理由であることは言うまでもありません。また、マニュアル化して整理することにより従業員や顧客の安全が確保される確率も跳ね上がります。お金を稼ぐ大前提として、顧客の従業員の安全を守ることが会社経営にとっては何よりも大事であり、そのためにも業務を整理をすることは何よりも大事ということになります。(もっとも、整理が進んだ組織には全く想定外のことが起きた時の対処が遅れがちになってしまうという側面もあります。)

語り尽くされた議論ですが、今の日本で成功している企業には、欧米で作られてある程度やり方が確立している業務を日本人のセンスで整理し直して世界に広げた例は枚挙に暇がないくらい多いです。また、バブル期の過剰にアグレッシブな経営を収集するためになんとか事業を整理したことで高利益体質になり無事に今も日本経済の中心にいる企業もとても多いです。どちらの場合も、今それぞれの企業でトップに居る方の多くが「業務を上手に整理をしたこと」を評価されてそのポジションについていることになります。このことが、整理と混沌のバランスが他の国と比べて日本だけ大きく整理側に偏ってしまっている大きな理由の一つであるように私は感じます。

確認したいのですが、藤田は日本の大企業が過剰に整理側に寄っているから悪いということを言いたいのではありません。そもそも整理をすることが悪いことだとも思っていません。実際、ちとせという企業が大きくなるにつれて、我々が更に成長するためにも、顧客と従業員の安全を守るためにもより整理を進めなければならない業務・部署はどんどん増えています。

個人的な告白をすると、私自身は物事を整理するほうが楽だし、好きだったりします。しかし、スタートアップのCEOという役割をここまでの人生で選んでいることもあり、日々必死に自分の組織における混沌側の割合を増やそうと骨を折っているので、私自身が混沌を起こしたい人・混沌が好きな人だと思われている気がしていますが、決してそうではありません。そもそもシンガポールでの生活が好きって言ってる人間ですしね。

私はただ、他の国と比べて日本だけが、世の中の全てを整理側に寄せることだけが仕事の進歩であり社会の進捗であると多くの人が疑わない社会・カルチャーになってしまっているのはなぜなのか?という論点について議論したいだけなのです。その理由のうちの一つが、今の日本の経済界で実権を握る人のほとんどが「混沌の状況を上手に整理したこと」で評価された人だからというのは、多分ピントの外れた指摘ではないのではないかと思っています。

ちとせのような小さな会社を経営する上では、チームづくりという仕事の重要さが経営者が果たす仕事の割合で大きいと考えています。ちとせに「人事部」がまだ存在しないのもそれが理由です(そろそろ人事部ができることになるとは思いますが)。会社の中に無数にあるチームのそれぞれにとってあるべき整理と混沌のバランスは、それぞれのチームが対峙している業務の種類によって異なります。そして、それぞれのチームの整理と混沌のバランスは、チームにアサインする人間の嗜好と志向と思考によって調整するのが経営者の役割だと思うのです。

ちとせの中で最も混沌寄りのチームを作らなければいけない業務は、世の中でまだ誰もチャレンジしたことのない研究開発・事業開発を行うチームです。こういったミッションに対峙するチームを作る場合には、その分野について全くの素人を集めたチームでは上手く行かないのは言うまでもないのですが、だからと言ってその分野のエキスパートばかりを集めても上手くいきません。

この『チーム内の人材のバランスで整理の混沌のバランスを保つことこそが研究開発・事業開発の肝だ』という説明をすると、事業会社の方々には「なるほど面白いことを言うね。」とか「以前からそう思っていたのだけど言語化してもらってスッキリした。」というお言葉をいただくことが多いです。一方、コンサル業のような、外部から事業を支援するという生業に従事しており、尚且つその道で経済的に成功したキャリアの人は、「専門性は深ければ深いほど良い。」「専門家の割合が増えれば増えるほどよい。」と考えるために、藤田の「素人と専門家のバランスによって、整理と混沌のバランスをとるのが大事なんです。」という意見に対しては、お前は相変わらず「世間知らずだ。」とか「MBAに行け。」とお小言をいただくことが多いです。

その人が辿ってきたキャリアによってここまで綺麗に意見が分かれるのを見るたびに、好奇心旺盛な藤田はついつい楽しくなってしまって、ついついニヤニヤしながら真剣なお説教を聞いてしまうので、更に怒られます(笑)

このあたりの「素人と専門家のバランス」が、新しい事業を興すときになぜ大事なのかという具体例がよく分かるので、先日公開されたアフリカを自転車で縦断したことがある片岡の記事(ちとせのひと Vol.6 片岡陽介 ~エボリューションの中で生きている~)を是非読んでみて下さい。

私自身は自転車で50kmも移動したことないのに、自転車でアフリカ縦断の片岡の話が面白くて何度も聞いているせいで、たまに面接で日本をバイクで縦断したとか、九州から東京まで自転車で旅をした話を熱心にしてくれる若人の話の反応が、ついつい薄い反応になってしまって申し訳なく感じています。