ちとせグループでは多様な生き物と向き合っています。このシリーズでは、素敵な色と生き物に会いにいきます。
暑すぎる夏に少しずつ秋を感じることができるようになってきましたね。皆さんはどのようにして秋を感じますか?私は秋の鳴く虫で秋が来ているなと思います。夜にエンマコオロギの声(コロリー、コロコロリーと涼やかないい声)を聞くと秋を感じます。
夜にはコオロギが鳴く近所の河川敷
植物の実が熟し始めているのも秋を感じます。2023年度の新米が並び始めました。収穫時期が早い品種・地域では8月中旬ごろから収穫が始まります[1]。私は夏バテで失われた食欲が新米を食べることで回復します。味覚と体重計から秋を感じることができます。穀物の収穫を秋と感じるのはイネの収穫が秋であるためです。日本では麦類の収穫は初夏です[2]。もしもイネが栽培化されなければ、実りの季節のイメージは麦の収穫時期である夏になっていたかもしれませんね。
今回は身近な実りを感じる草としてエノコログサを取り上げます。エノコログサは通称ねこじゃらしと呼ばれ、道端に生えているのを積んで遊んだことがある人も多いかとおもいます。実はアワ(粟)の原種はエノコログサだといわれています[3]。ただの雑草だと思っていたものが穀物として食用にされる植物と同じだと知ると急にちょっと価値があるものに見えてきませんか?
KSPの敷地内にももちろん生えているエノコログサ
エノコログサ
・属名:Setaria
・分類:単子葉類 > イネ科 > エノコログサ属
・生息:世界中の温帯
エノコログサの仲間は日本ではエノコログサ (Setaria viridis)、アキノエノコログサ (Setaria faberi)、キンエノコロ (Setaria pumila)が主に見られます。これらは穂で見分けることができます[4]。
・エノコログサ:穂が小さめで先端が上を向いているもの
・アキノエノコログサ:大きめの穂がくるっと曲がっているもの
・キンエノコロ:穂にびっしり生える毛が金色のもの
この前、アグリベースにいってきたのですが、アグリベースの畑の脇にキンエノコロが生えていました。こんなに大きな穂のキンエノコロを見たのは初めてだったので大喜びでたくさん摘んでしまいました。
大喜びでキンエノコロのブーケを作る私
こうやって野生に生えているものを人間が利用をすると、植物が栽培するのに適した性質へと変化していきます。具体的には熟しても穂から種子が落ちにくくなり収穫がしやすくなったり、種子が大きくなったりします。これを栽培化といいます[5]。もしも私が毎年大喜びでキンエノコロを収穫して、そこから種を取って植えて、というのを何年か繰り返すと粟そっくりになるかもしれません。そうしたら金色の穂が揺れる畑になりそうですね。
キンエノコロの穂。穂に生える毛が美しい金色をしている。
[1]関東では千葉県の「ふさおとめ」「ふさこがね」が8月中旬から収穫が始まります。https://www.pref.chiba.lg.jp/seisan/bei2.html
[2]七十二候の「麦秋至」むぎのときいたるは麦の収穫の季節で6月上旬。麦秋は夏の季語である。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%A6%E7%A7%8B
[3]那須浩郎, 「雑草からみた縄文時代晩期から弥生時代移行期におけるイネと雑穀の栽培形態」『国立歴史民俗博物館研究報告』 第187集 p.95-110, 2014年7月, 国立歴史民俗博物館https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/records/300
[4]牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
[5]鵜飼保雄・大澤良・編著『品種改良の世界史』作物編、悠書館、2010年