1)コロナ型ウイルスは怪人二十面相
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による第一波感染もようやく収まり日本列島が一息ついたところで、コロナウイルスの一般には知られていない所業(副作用)についてお話ししたいと思います。
現在流行っている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はコウモリ由来だと言われています。最初にコウモリ(あるいはセンザンコウ?)からヒトに感染した状況を想像してみましょう。コウモリの細胞内で増殖したウイルスのRNAゲノムはコウモリの細胞膜をかぶって出てきます。こうして生まれたウイルス粒子は、コウモリのミニ細胞といってよいでしょう。
このウイルス粒子がヒトに感染する時、ウイルスの膜(エンベロープ)とヒト細胞膜との間で融合が起こり、中身のRNAがヒト細胞に注入され感染が成立します。従って、コウモリの細胞膜がヒトに“移植”されることになります。これだけならまだいいのですが、コウモリの細胞質もわずかですが確実に持ち込まれます。そればかりか、コウモリのDNAの切れ端も紛れ込む可能性があります。
つまり種間を越えた生体物質の移動が起こるのです。勿論、一旦ヒトに感染し増殖したウイルスは、ヒトの細胞膜を被っていますので、コウモリ由来の分子は十分に希釈されており特に問題はないでしょう。
ヒトからヒトにうつる場合は別の問題が生じます。恋人からうつされるのならまだしも、見知らぬ人の細胞のかけらが移植されるのを想像するのはあまり気持ちがいいものではありません。このように、広義のコロナ型ウイルスは、個体や種を越えて、細胞膜、時にはDNAも移動する可能性があります。従って、生体にある程度影響を与えることは否定できません。
エイズウイルス(HIV)のように、DNAに姿を変えて宿主のゲノムに入り込むレトロウイルスは、増殖の際、ゲノムDNAの断片を一緒に持ち出すので、感染を通して、直接進化にも影響を与えることになります。
2)血液型とコロナウイルスの感染
ここまで読んで、新型コロナウイルスと血液型には何かしら関係性がありそうだと気づかれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。この問題に興味ある説を唱えているのが山本文一郎博士です*1。
これまで述べてきた文脈に沿って話を進めます。例えば、A型のヒトに感染したウイルスは、A型の抗原(糖鎖)を持ったエンベロープを被って出てきます(A型のヒトの体細胞の細胞膜表面にもA抗原が発現している)。もし、このウイルスがB型のヒトに感染したとすると、B型の人が生まれながらに持っている血清中の抗A抗体の作用で感染がある程度阻害されるはずです。おそらく、ウイルス粒子は赤血球のように凝集するでしょう。
このように、脂質2重膜に囲まれているエンベロープウイルスは、輸血の際の血液凝集の法則に従ってある程度排除されると山本博士は主張します。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、武漢を出て以来、血液型の防衛線をかいくぐって、現在のパンデミックに至っているのでしょう。
血液型の多型が今でもヒトに存在するのは、進化の過程で種の存続に有利に働いてきたことによると、博士は説明します。自然の奥深さを感じるのは私だけでしょうか?
実は、山本博士は大阪市大時代に指導した博士課程の院生の中の一人です。卒業後に渡米し、ヒトABOタイプの血液型を決める遺伝子群を同定し、Nature誌に発表したことで有名な学者です。なお、PCRを使って遺伝子クローニングに成功した世界最初の研究者の一人でもあります。現在はバルセロナで活躍中です。
ところで、DNAは半保存的複製(Semiconservative replication)をすることはよく知られています。実は、SARS-CoV-2のゲノムのような一本鎖RNAは“保存的複製”(Conservative replication)を行います。保存的複製という学術用語は概念的には存在しますが、あまり使われません。この複製方法こそがパンデミックの原因の一つであることを次回のコラムでお話したいと思います。
古澤 満
*1 ABO Blood Groups and SARS-CoV-2/COVID-19 Infection (version 2) by Fumiichiro Yamamoto
●第1回〜35回まではこちらから、第36回~はこちらからお読みいただけます。
●本コラムで述べられている「不均衡進化説」については、こちらも併せてお読みください。