はじめに

皆さんこんにちは。ちとせグループでインターンをしている文系大学生です。
本コラムでは、1月に行われた無料オンラインセミナー「カーボンニュートラル実現に向けた藻類の可能性」について、理系学問を大学で一切勉強してこなかった文系大学生目線でみた感想を書いていきたいと思います。

 

 

私は、SDGsやカーボンニュートラルなど環境問題への意識の高まりをひしひしと感じていました。そして、日本の自然が活用されず退廃していく姿をとある地方の村で見たとき、今後を見据えた「自然との共生」のあり方について考えるようになりました。

そこからご縁があり、人類と地球環境を千年先まで豊かにする生物利用産業の創出を掲げるちとせグループにてインターンをしております。
そんな私は、高校1年生の時に必修授業で生物を習ってから今までバイオテクノロジーはもちろんのこと、光合成とは何か、遺伝子とは何かなどの話もほとんど触れずに大学生活を過ごしました。

そんな未知の状態で参加したこのオンラインセミナーは、まさに目から鱗でした。

なんとなく、世間で叫ばれている言葉や、なんとなくイメージで理解した気になっている自然のこと、これからの地球温暖化対策のどこがポイントなのか。それを端的に、しかもエビデンスに基づいてお話されていて、すごく勉強になりました!

さて、本コラムではそんなオンラインセミナーで「文系大学生がハッとした」ポイントをいくつか紹介していきます!

カーボンニュートラルとは?

セミナーの最初のテーマは「カーボンニュートラル」とは何かということでした。確かに、私の周りでもこれ以上CO2を出さないようにしようとか、温室効果ガスが増えないようにしようとかの主張を聞きますが、「カーボン(炭素)をニュートラル(中立的)にする」とは改めて考えてみるとどういうことなのでしょうか。

環境省では
「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態」
と定義されていますが、正確な説明であるが故に、私にとっては理解が難しいものでした。
そんな私でもわかりやすいように、セミナーで星野さんは炭素を3種類にわけて丁寧に説明してくれました。

3種類の炭素とは、1つ目は地下の炭素、化石燃料など長い年月をかけて地中に蓄積された炭素です。石油などはそれらの地中の炭素を掘り起こして、プラスチックやガソリンなどで地上で使えるようにします。2つ目は地上の炭素、私達の体も有機物でできています。自分たちの身の回りの多くのものは炭素を含んでおり、こうした有機物全般をまるっと地上の炭素と考えます。そして最後、3つ目が空中の炭素。空気中に含まれるCO2やメタンガス等のことを指します。

<図:三つの炭素の話>

さて、現在の化石資源から燃料やプラスチックなどの日々私たちが使う有機物を作り、それを消費するという人間の営みを一連の流れにまとめると、

➀化石資源(地下の炭素)からガソリン(地上の炭素)が精製される
➁ガソリン(地上の炭素)をなんらかの形で消費し、CO2が排出される(空中の炭素)

という形で、地下の炭素を空中の炭素に変える動きだと言えるでしょう。
ここの➁に代表される、「空中の炭素になる量」が「大気中のCO2が固定される量」を遥かに上回っているので、空中の炭素が増える一方なのが現在の状況です。
カーボンニュートラルとはその状況を踏まえて「空中の炭素が増える量と、空中の炭素から地上の炭素や地中の炭素に戻る量を一緒にして、空中のCO2の量が増えないようにしよう」という発想と言えます。

ここまで聞いて、私は、カーボンニュートラルという分かっていそうでよくわからない言葉を、星野さんの話を聞いてやっと理解できたような気がしました。
では、地球温暖化の原因とも言われている大気中の炭素を減らす方法はないのでしょうか?CO2を地中深くに埋めてしまうなどの人工的な方法もありますが、特に有力とされているのが「光合成」だと星野さんは語ります。セミナーのテーマは、なぜ光合成が有力なのかという点から光合成についての話に移っていきます。

光合成とは?

文系大学生の私は、光合成とは「呼吸の逆」みたいなざっくりした理解しかしていませんでした。人間が酸素を吸って二酸化炭素を吐くように、植物が二酸化炭素を吸って酸素を吐くんでしょ?という中学校の頃の理科の授業の記憶がおぼろげに残っているのみです。しかし、このセミナーで私の光合成についての理解がとても中途半端なものだったことを痛感させられました。

星野さんが強調する光合成のポイントは、「太陽の光エネルギーから複雑な有機物を取り出せること」でした。まずは太陽光電池が電気を作り、次にその電気で化学反応を起こし水素やギ酸等の中間体と呼ばれるものを作る、さらにそれを複雑な有機物にする。その一連のプロセス全てを光合成は光エネルギーからやり切るのです。

太陽光パネルの「効率」と光合成の「効率」は同じ効率に見えますが、星野さんは「どこからどこまでの効率」なのかで全然意味合いが違っていると強調しました。つまり、大事な点は「空気中の炭素を複雑な有機物にすることができる」点であり、「二酸化炭素を吸って酸素を吐く」という点は環境問題の文脈では重要なポイントではないのです。

太陽光発電は「CO2を使わずに電力を作る」、一方で光合成は「CO2を使っていろんな成分を作る」この違いは実はすごく重要だと星野さんは続けました。すなわち、原油からアスファルト、ガソリン、プラスチックや合成ゴムを作り出すように、光合成を通して大気中のCO2を人間の身の回りにあるものにすることができるかもしれないのです。大気中のCO2が増えないようにする、すなわちカーボンニュートラルのためには光合成が一番重要な要素なのかもしれません。

光合成のリアル

こうして、星野さんのセミナーを聞いて「光合成ってすごく重要なんだ!すごい!」と目を輝かせていたのですが、さすがは専門家、星野さんは続けて光合成のリアルを教えてくれました。

実は光合成は、太陽から降り注ぐ、光エネルギー100%を有機物に変えているわけではありません。光合成に利用できない光だったり、反応でのロスなどで光合成がバイオマスとして固定できる太陽光のエネルギー量は最大でも10-13%前後と言われています。さらに呼吸や有機物合成のロスを合算すると、慣行農業において通常その効率はわずか1%未満、微細藻類の培養では、方法によっては高いもので5%前後が報告されているとのことです。しかも、藻類を含む植物の光合成には、日射量と気候が適した環境が必要となります。藻類を使った光合成はいつでもどこでも万能というわけにはいかないのです。

では、光合成の活用は日本では有効と言えるのでしょうか?寒暖が激しい日本では気温の関係で、藻類を培養するにも効率が悪くなってしまいます。実際にちとせグループが藻類を大規模培養しているのは、マレーシアやブルネイなどの日射が強く、気温が安定している赤道直下です。今現段階では、経済性も含め効率的に生産するにはそのような地域にせざるをえないという現実も教えてくれました。

このように光合成は超万能で無敵!とは言い切れないものの、日射の強さと気候と光合成の効率を踏まえれば、藻類培養のCO2個定量を試算することができます。実際に、マレーシアにおいて、光合成効率3%を達成した場合、藻類バイオマスとして二酸化炭素、153.5ton-CO2 ha /yearが固定されることになるそうです。このように固定するCO2量を算出することができます。こうしてCO2を固定してさらにその藻類から脂質やタンパク質を得ることができるということです。

光合成活用の主役は藻類

こうして光合成のリアルな一面も語った上で、星野さんは光合成を活用するのに藻類が最適だと強調します。そこで文系大学生の私は戸惑いました。

光合成が、そのリアルな面を踏まえてもカーボンニュートラルの取り組みに大事なのはわかりました。しかし、なぜ一般的な草花や樹木ではなく、藻類が最適なのでしょうか?

光合成のメカニズム自体は木でも、草花でも、藻類でも変わりません。ではなぜ植物ではなく、藻類が光合成の主役なのでしょうか?
星野さんは、そんな僕の素朴な疑問を知っているかのように、藻類の良さは高生産性・省資源・用途の多様性の3つだと語りました。

藻類は、野菜の根っこのような「使えない部分」がないことが特徴です。実際に産業活用する際に邪魔になってしまうセルロースやリグニン(草木がまっすぐ生える頑丈さの成分です)をあまり作らずに、急速に増殖します。播種から収穫開始まで、早いものだと2-3日で安定生産が可能です。「余計なものがない」ことと圧倒的な成長スピードが生産性を上げるための鍵になっているのです。他にも、藻類は実は普通の農業よりも水を使わず、土壌がいらないので農業に適さない土地でも生産ができます。そして、作られる成分の用途は多岐にわたります。

光合成でCO2から有機物を作る上で無駄が少なく、効率的なのが藻類培養なのです。
ただし、注意すべきことして、これまでの説明は藻類培養が「独立栄養方式」である光合成で行われていることが前提にある、と星野さんは説明しました。

実は微細藻類の培養法には、別の植物などの糖分を使って培養する「従属栄養方式」と光エネルギーとCO2から培養する「独立栄養方式」の2つがあります。
前者は結局、糖分を藻類バイオマスにする物質変換に過ぎないので、藻類の持つ強みを生かした方法とは言えません。

植物の光合成の力を活用するとなると、僕のような素人は、植林や、慣行農業を思い浮かべますが、光合成を活用するには藻類が最適であるという星野さんの説明に、驚きの連続でした。

藻類に残された課題

こうして、目から鱗の星野さんのセミナーに目を輝かせている間に、セミナーのテーマ的にも佳境に差し掛かりました。すなわち、大きな可能性を持つ藻類の今後の話です。

このようにカーボンニュートラルの主たる切り札となりえる「光合成による藻類培養」の前途は有望と言えるのでしょうか?

現在でも実用化を見据えた段階に入ってはいるものの、技術的な課題が多いことは否めません。今までも、採算性が確保できなかったり、社会のニーズに答えようとするあまり理論から外れた数値を出してしまう事例も紹介されていました1
しかし、星野さんのセミナーの中では、現時点の技術水準でも経済性で言えば、原料として平均単価600円で売ることができれば新しい技術開発なしでも事業として成立するという試算が示されていました。そして、星野さんは藻類が事業として成立することを阻害する要因のひとつが「リスクの押し付け合い」だと強調します。
現在ではSDGsやCO2排出削減などのニーズに対して藻類が注目され始めています。
しかし、色々な製品を加工して販売したくても、原料となる藻類が足りない。その一方で、生産側もコスト削減や量の確保のために大量生産をしようにも売れる保証がない。このように生産と加工の間でリスクの押しつけ合いになってしまうのが事業として立ち行かなくなる根底にある原因なのです。

できたらいいなではなく、リスクとリターンを各プレーヤーが把握し、参画する意思を明確に示す。そして藻類バイオマスの利用を基盤とした新しい産業を作り出す必要がある。星野さんのセミナーはそんな結びで終わりました。

いかがでしたでしょうか?

生物の勉強を高校入学時でストップしてしまった文系大学生の私にとって、カーボンニュートラルとは、光合成とは、藻類の特徴とはを藻のスペシャリストの星野さんから直接聞ける機会は滅多にない貴重な機会でした。

特に星野さんの話を聞いて思ったことが、本セミナーのような「分かりやすく、一つひとつを曖昧にしない」説明は世の中でなかなか聞くことができないということです。
これは僕の個人的な印象ですが、カーボンニュートラルの話、バイオマスなどの話に僕のような素人が興味を持って調べてみても、そもそもカーボンニュートラルとは何か、バイオマス利用をどんな基準で評価するべきなのか、などの詳細についての情報は見つからず、情報があったとしても理解が難しい場合が多く、個人が正しい情報を得るのは難しいと感じています。

SNSなどで目立つ情報は、前提条件が曖昧で判断に苦しむものだったり、感情論と言わざるをえないものなども多く含まれているように感じます。
だからこそ、今回のセミナーのように、実際に藻類事業に長年携わっている方の話を聞くことで、前提条件はどんなものがあるのか、専門用語はどういう意味なのか、考える上でどんな観点が必要なのかを知ることが、私たちが「環境にやさしい」を考える上での第一歩なのではないかと思います。

参加されていた人の中には、実際に企業で研究者として働いている方や、理系大学生などの理系のバックグラウンドをお持ちの方が多くいらっしゃいました。しかし、個人的には僕みたいな文系の大学生、サラリーマンや主婦の方など理系以外の方々にもこれからの一般常識として是非知ってほしい内容だと感じています。
このレポートを読まれた方もぜひ、身の回りの専門外の人にこの話を伝えてほしいです。

 

1Tredici(2010).”Photobiology of microalgae mass cultures: understanding the tools for the next green revolution”. Taylor & Francis