たしかあれは高校2年生の冬、英語の参考書で比較級の項目をぼんやりと見ていた。
【The +比較級~, the +比較級…】 ~であるほど、より…だ
(例文) The further, the merrier. 遠ければ遠いほど楽しい。
どこかの旅人が故郷を遠く離れて、見たことも聞いたこともない食文化や宗教儀礼に目を見開いて驚いたのだろう。この手の例文なんてこれまで数百や数千は目にしているが、これは何故だか無垢な旅人が嬉しそうに呟くイメージと一緒に心に残った。
あれから15年近く経って、(年齢だけは)立派な大人になったわけだが、最近やけにあのイマジナリー旅人が私に囁きかける。なんなら語尾に「!」が5つぐらい加わって頭に響く。というか多分あのイマジナリー旅人は自分自身のことで、そんなやつが「バイオベンチャーで広報してみた」なのだから、まあ、さもありなん。
ちとせで働く人に、今まで何を専門に勉強してたの?と聞くと「光合成」とか「藻類の毒」とか「蟻の社会」とか、私からしたら「!?」みたいな回答ばかり返ってきて、本当に面白い。尋ねたところで必ず理解できるものでもないが、何故それを勉強したのか、それのどこに面白さを感じたのか詳しく聞いてみる(余談だが、「なんで?」のフォーマットを「批判」の意味で使う話法もあるので、どこかで誰かを不快に思わせていたら申し訳ないです。純粋な興味から質問しているだけなんです、、、)。
ああ、それは確かに面白いかも、と思うこともあれば、いくら聞いても私には分からん、と思うこともある。「面白いかも」は当たり前に面白いし、「分からん」は分からんこと自体に嬉しくなってしまう。くーーっ、全然分からんな!歓喜!(眉間にシワを寄せながら)
だって私も中学生の頃までは、多分彼らと同じように理科の授業を受けていた訳で、同じようなタイミングで、ミトコンドリアだとかべん毛だとかの機能は覚えたはずなのに、どこから人間の興味って分かれていってしまったのだろう。口の中を綿棒でこすって顕微鏡で自分の細胞がうごめく様子に「うわぁ…」と思ったときからかなあ。細胞を観察するよりも、英語を覚えてビートルズの歌詞の情景や時代背景に想いを馳せる方が楽しかった、のは何故か。
とにかく、一体全体この人たちは何故「あんなもの」や「こんなもの」に興味を抱いたのか。その心の動きや原体験にこそ興味がある。本当に悪く受け取らないで欲しいのだが、自分に全く興味を持てないことに情熱を注いでいる人を見ると、純粋にかっこいいと思うし、そのおかげで今日も地球が回っているのだなあと感心してしまう。どういうことかと言うと、私に電車のダイヤを組ませたり、高層ビルを設計させたりしてみるといい。やらせたくないだろうが、私だってやりたくない。
遠ければ遠いほど楽しい。そして知らないことは尽きない。この寿命が尽きるまでの時間で、このエンタメ(とあえていう)をどれくらい享受できるのだろうか。昔、大人が言っていた「勉強は楽しい」って多分こういうことかも。
ところで The further, the merrier のように、この構文に色んな価値観を当てはめたら自分の心が何を大切にしているか、美学のようなものが浮き彫りになるんじゃないかな、と思った。
―――お弁当はデカければデカいほどいい
パッと思いついたのがアホの美学みたいで嫌になったので、今日はもうこれについて考えるのはおわり!