生き物たちの力を借りて豊かな未来をつくるバイオベンチャー企業群、ちとせグループ。このシリーズでは、企業という有機体を構成するひとつひとつの細胞である「ひと」にフォーカスを当て、ちとせの全体像を描いていきます。

片岡 陽介(かたおか ようすけ)
Chitose Agri Laboratory Sdn. Bhd. Senior Manager, Senior BioEngineer 所属/2015年4月入社
信州大学 工学系研究科修士課程修了

Chitose Agri Laboratoryに所属。南アフリカで青年海外協力隊として活動後、ビジネスで世界を変えたいという想いを胸にちとせに入社。現在は、マレーシアやシンガポールを中心に、「千年農業」の価値観を広める活動に従事する。

1日の流れ
7:30 AM 起床、身支度
8:30 AM 業務開始 (農園担当者への指示、農園管理業務)
11:00 AM 農園管理の改善に関する調査や戦略立案
12:30 AM 昼休憩
1:30 PM 会議、顧客対応
3:00 PM 袋詰め部門や販売部門との調整
4:00 PM メールチェックや新しいプロジェクトの企画立案など
6:30 PM 業務終了
7:00 PM 顧客との会食など
12:00 AM 就寝

 

―――まずは、ちとせでの業務を教えてください!

マレーシア、キャメロンハイランドの熱帯高地で、千年農業※1という価値観を広める仕事をしています。具体的には、環境にも経済的にも持続可能な農業技術を、自社農園で実践し、周辺地域の農家に広め、かつその手法で採れた農作物を「ちとせ野菜」というブランドで展開しています。私自身、そのミッションのためには、畑に出たり、農家さんや卸先と話し合ったり、マーケティング施策を考えたりと、基本的には全てなんでもやります。

※1 「千年農業」とは…
農地や土壌の生態系を維持し、美味しくて安全性の高い作物を持続的に作り続ける、ちとせグループが目指す農業のあり方。環境持続性、経済持続性の双方を担保しながらこの価値観を世界に広げる活動を展開している。


東南アジアでは、無計画な土地開発や、化学肥料の過剰投入など次世代を顧みない農業が広く行われており、このままでは環境資源のみならず観光資源も失われてしまうという課題を抱えていました。きちんと農業を行った人が、真っ当な評価を得られる仕組み作りが必要だと私たちは考えました。
いくら「環境的に」持続可能でも、その農業を行う人々の生活が「経済的に」持続可能でないと、協業関係は立ち行かなくなってしまいます。

そのため、千年農業のやり方で出来上がった農作物は私たちが全て一定の高値で買い取ることを約束しています。価格変動がある生鮮市場で一定の価格で取引することは、安定した収入源となり農家さんへの利点になります。雨季などで他の業者の買取価格が高くなり不満が出ることはありますが、平均して現在の水準からどれだけ利益を上げることができるかを伝えるよう心掛けています。

とはいえ、いくら利益を予測したところで、圃場が変われば収量や病害の影響も大きく変わるので、数年実績を重ねないと現実的な状況を把握することはできません。そのため、契約農家として実際に営農してもらう中での地道なすり合わせが欠かせません。日々の付き合いや行事で酒席を共にする中で、徐々に相互理解や信頼を獲得していきました※2。

※2 2018年に現地レポートとして書いた[東南アジアの現場から] では、キャメロンハイランドでの生活を瑞々しい感性で切り取っている。ライトな読み物としておすすめ!

 

―――農業にまつわる非常に幅広い範囲の業務をされていますが、大学では農業を専門に学ばれていたのですか?

いえ、大学では進化生態学で昆虫と植物の共進化(共生する二者がお互いに影響を与えながら進化すること)について学んでいました。

―――そうなんですね!進化生態学から、どのようにしてちとせにたどり着いたのか聞かせてください。

昔から植物や昆虫が好きでこの学問を学んでいたのですが、研究を深める中で知らない世界に触れると、頭の中で花火がスパークするような感覚をいつも抱いていました。修士課程まで修め、次の進路を考えた時に「このまま博士に進み研究だけしていて満足するのだろうか。新しい世界を見てみたい」という強い気持ちがいつの間にか芽生えるようになりました。そこで大学を卒業して、JICAの青年海外協力隊として日本の外に飛び出す決意をします。2年間、南アフリカで協力隊として農業学校で算数を教える活動に従事し、終了後はアフリカ大陸の南から北まで自転車で縦断する旅に出ました。

南アフリカの農業学校で算数を教える活動に従事。写真は教え子と同僚と。

―――すみません!話題がちとせにたどり着く前なのですが、アフリカでの経験が気になりすぎてしまいました(笑)見聞きして来たことを、ちょっとでいいので教えてください!

例えば些細なことですが、アフリカの商店では、右から左までどの店でも全く同じ商品を売っている光景をよく目にします。ロジスティクスが構築されていない、差別化という概念自体存在しない等、色々な理由があると思いますが、商売そのものがあまり洗練されていない印象を受けました。アフリカに生まれたというだけで理不尽な生活を強いられている人たちがいる現実に胸を痛めていたのですが、「もしかして、ビジネスを通して彼らにインパクトを与えるも面白いのでは?」という気付きを得ることができました。日本にずっといたら自分はビジネスに興味を持つきっかけは得られなかったと思います。

南アフリカからエジプトまで、合計15,000kmを自転車で走破。写真はナミブ砂漠。

―――なるほど…そしてなんだか話題がちとせに戻って来そうな気がしてきました。

そうですね(笑)協力隊での活動を終えた後、「進化 x ビジネス」※3 を扱っている会社を扱っている会社を探しました。しかしそんな会社はかなりレアで、ちとせの他に海外を探しても1社か2社あるかないかぐらいでしたね。

※3 ちとせ研究所の前身であるネオ・モルガン研究所は、不均衡進化理論の提唱者として知られる古澤満氏の創業。ちとせ研究所では、不均衡進化理論に基づく独自の技術で育種や改良のサービスを提供している。

 

自分にとってちとせがあったことは幸運でした。学問の世界や叡智の探求を否定する気は全くないのですが、正直、昆虫と植物の進化生態を研究したところで、実社会の役には立たないと悩んだことがありました。しかし自分の好奇心に突き動かされてここまでたどりつけたので、今自分と同じような悩みをもった学生さんや、昔の自分にも、自信を持ってそれを突き詰めろと言ってあげたいです。思考経路や世の中の仕組みを少しでも多く知っていることは無駄にはなりません。

―――なるほど…ここまで聞いて、大学でも協力隊でも特に農業をやっていた訳では無かったんですね。

そうですね、家庭菜園や生き物を育てるのは好きでしたが、農業経験はゼロでした。他のメンバーたちも同様で、発足時は農業経験豊富な人材が集まったという訳ではありませんでした。今ではこちらでの機会や出会いに恵まれ、近隣農家や日本の農家にも負けない営農能力を培うことができたと思っています。

実は私たちと同じように日本から東南アジアへ経験豊かな農家さんがやって来るのですが、ほとんどの方たちが1年、2年で帰ってしまうという現状があります。周りを見渡せば、気づけば残っているのは自分たちだけになりました。もちろんベーシックな理論はありますが、農業はかなり地域特異的なビジネスなので、地域ごとに異なる技術が発達しています。日本で得られる高品質な資材や情報は手に入らないし、また病害虫も全く違います。そんな中、日本のやり方にこだわってしまうと、それがかえって足枷になってしまうのかもしれません。ある意味、私たちは更地だったからこそ、柔軟にここまでやって来れたとも言える。

在マレーシア日本国大使館で行われた天皇誕生日祝賀会にて。片岡は左から2番目。

―――千年農業のこれまでについてお話いただきましたが、これからについて聞かせていただけますか?

もともと私たちは東南アジアの農業を変えるという志の下、この地に入ってきています。ありがたいことにマレーシアやシンガポールでは「ちとせ野菜」を高く評価いただいていますが、自分としてはまだまだ満足していません。苺やトマトといった生鮮野菜は、農業全体に与えるインパクトとしては全く大きくないからです。これからは、農業の業界そのものにインパクトを与えられるような大きな仕事にも着手していきたいと思っています。そうすることで農業が本来あるべき姿をデザインしていくことにも繋がると考えています。まだまだここに留まっていてはいけないんです。今後タイやラオス、ベトナム、インドネシアにも拡大していきたいと、可能性は常に模索しています。

―――そういえばこの間、アンゴラに出張に行かれてませんでしたか?

実は、藤田さんから「5年後にアフリカに進出できるよう足場を固めておいて」ということで話をいただきました。すぐにアンゴラで何か始められる状態かと問われればそうではありませんでしたが、現地のECサイト運営会社がちとせ野菜に興味を示してくれたり、農業に留まらずエネルギー会社が藻類事業に興味を持ってくれたりと、手ごたえは感じました。この繋がりを大切に、いつかはアフリカに帰って、自分に新しい視点を与えてくれた人たちに恩返ししたいと思っています。

2023年8月にアンゴラを出張で訪れた際の写真。片岡撮影。

――――――思い入れのあるアフリカとちとせのビジネスが繋がる可能性が見えてきたんですね!ところで、ちとせを受けてみてどんな印象を抱きましたか?

海外を放浪していた人間が話をしても、なんだか楽しそうに話を聞いてくれるな、という印象でした。海外に長くいて日本の会社に就職できずに苦労する例をよく聞いていたので、冷たくあしらわれる覚悟はしていたのですが、、、自分の知らない世界に強く興味を持つ人達がたくさんいる会社なので、どんどんいろんなものを吸収して大きくなっていくだろうな、と思いました。

―――確かに好奇心の強い人はたくさんいますよね。片岡さんが思う「ちとせらしさ」って何だと思いますか。

エボリューションの中で生きていると言えるかもしれません。進化を扱っている会社とはいえ、直接それをビジネスにしている部門としては一部なのですが。でもそれでがっかりしたかというと、全くそんなことはなくて、生き物の進化の考え方を身に着けている人が多く働いているためか、なんだか心地いいんです。会社が競争社会の中で生きていくのもまさに生き物的な挙動を取るわけで、そこには進化のメカニズムが潜んでいます。そういう意味で面白い会社だなぁ、って常々感じています。

―――仕事をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか?

直営のショップやイベントで屋台に出店した際など「いつもスーパーで買ってます」とか「美味しくいただいてます」とか、自分が手がけた農作物についてお客さんからポジティブなフィードバックをいただける瞬間は心の底からこみ上げる嬉しさがあります。また「食べることは、生きること」で、農業は人が生きていく上での根源とも言えます。どこの国に住んでいてもやらなきゃいけない。その土地の食文化の基礎を作っているというやりがいも感じます。

話は遠い未来に飛びますが、人間の仕事がAIやロボットに奪われ、やることがなくなってしまった哀愁漂う人間たちが、最後まで手放すことはないと思っているのは、「人を喜ばせること」だと思っています。誰かと一緒にいて楽しいことをするのも人を喜ばせていますし、何かおいしい物や美しい物を作ることも人を喜ばせることだと思います。千年農業のミッションは Move people’s heart through our agriculture (農業を通じて人々を感動させる)ですが、未来永劫まで残るであろう人の営みの一つに携われることを誇りに思っています。

ちとせ直営のショップにて

―――そう考えると、ちとせのVision「生き物たちの力と共に 千年先までもっと豊かに」は「心の豊かさ」も指しているように思えますね。では最後に応募を考えている人へのメッセージをお願いします!

ちとせは変化に富んだ会社です。外国では日本以上に様々なことが目まぐるしく変化するので、将来的に海外に飛び出したい人であれば、ちとせのような変化し続ける会社で適応できるようになっておくのも、ある種の成長戦略になるのかもしれません。これから先の未来、今まで以上にすごいスピードで変化が訪れる時代が来ると思います。なので、世界に飛び出したいと思う方がいたら、ぜひちとせを使ってみてはどうでしょう。

私が研究していた進化学では、「共進化」と呼ばれる相互関係があります。例えば、蟻は植物の中に住ませてもらい、植物は蟻に外敵からの防衛を手伝ってもらいます。企業と従業員の関係も同様で、雇う側も雇われる側も、相互に価値を提供しあっているはずです。ちとせには面白い人がたくさんいますし、この豊かな人的リソースと、刺激的な環境をぜひ利用して一緒に「共進化」していきましょう!

 

ちとせでは、多種多様なバックグラウンドのメンバーが活躍しています。
生き物の力をかりて、よりよい世界を、ワクワクする世界を一緒につくりましょう!
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▷ 本連載の記事一覧
vol.1:ちとせのひと Vol.1 切江志龍 ~生き物と一緒に文化をつくる~
vol.2:ちとせのひと Vol.2 江口知輝 ~肉眼に見えないもので、世界を変える~
vol.3:ちとせのひと Vol.3 林愛子 ~夢物語じゃない~
vol.4:ちとせのひと Vol.4 山村芳央 ~選んだ道を正解にする~
番外編:番外編:ちとせのひとびと
vol.5:ちとせのひと Vol.5 山本安里沙 ~全員が主人公、尖っていても調和する~
vol.6:ちとせのひと Vol.6 片岡陽介 ~エボリューションの中で生きている~
vol.7:ちとせのひと Vol.7 坂口航平 ~ぶつからず、補い合う~
vol.8:ちとせのひと Vol.8 浅野真子 ~ひとつひとつが千年先に繋がっている~