2017年よりちとせグループで運営してきた藻の情報サイト『藻ディア』。藻のことを調べていたら必ずといっていいほどこのサイトにたどり着いてしまう、そんなサイトに成長させることができました。そんな藻ディアを通じて、読者の方から度々質問をいただきます。せっかくなので同じような疑問をお持ちの方の役に立てればいいなと思い、質問への回答をご紹介することにしました。

Question

これだけバイオ燃料が重要視されている時代なのに、藻類バイオ燃料に焦点を絞った会社が潰れるのはなぜ?

突然ぶしつけなメールで失礼します。
最近、藻類の用いたバイオ燃料がメディアによく取り上げられることから、バイオ燃料生産に興味を持ち、知識を得たいと思った次第です。
ちなみに私自身は藻類やバイオ燃料関係の仕事とは全く関連のない素人人間です。

御社が発行されておられる藻メディアで興味深い記事を拝見しました。
「米国における藻類バイオ燃料ベンチャーの今」
https://modia.chitose-bio.com/articles/21/

「藻類バイオ燃料に焦点を絞った会社は倒産し、」という部分について、この理由をご存じでしたら可能な範囲で教えていただけないでしょうか?

トウモロコシや大豆はバイオ燃料として採算が取れるのに、なぜ藻類は取れないの???成長が遅いのでしょうか??
御社のHPのバイオ燃料についてのページを拝読しますと、育種技術の重要性を訴えていらっしゃいます。これは成長スピードの早い藻類を開発する必要がある、という意味でとらえても差し支えございませんでしょうか?

これだけバイオ燃料が重要視されている時代なのに、それを主体とした事業を展開する会社は潰れる、という状態が、私にとっては「なぜ???」と感じてしまいまして。。

可能な範囲で結構なのでお返事いただけるとありがたいです。

福岡県Yさん

 

藻ディア開設後半年ほどの間、アクセスランキングでダントツ1位を誇っていた「米国における藻類バイオ燃料ベンチャーの今」という記事。今回はその記事内に書かれていた、「藻類バイオ燃料に焦点を絞った会社は倒産」の箇所に関してご質問をいただきました。

この質問へは、藻ディアで “藻ガール” として活動しているメンバーから回答します。

Answer

初めに、Y様がご存じのバイオ燃料の知識は現状と違っているというお話をします。

現在、トウモロコシや大豆などの植物系バイオマスから作られるバイオ燃料が流通しています。このことから、バイオ燃料に関する事業はうまくいっているように見えるかもしれませんが、実際には化石燃料の方が安価でバイオ燃料事業は採算が取れている状況ではありません。世界に流通しているバイオエタノール、バイオディーゼルなどは、各国の政策による補助金が入ることで成り立っているものがほとんどです。

現状、唯一バイオ燃料事業として採算が取れているのは、ブラジルのサトウキビから作られるバイオエタノールぐらいです。ブラジルの場合は赤道直下という地域柄、サトウキビの生産性が高く、また大規模なプランテーション農業が可能なために50円/L以下のガソリンに匹敵するレベルの価格でバイオエタノールを生産することが可能です。一方で、バイオエタノール生産のためのサトウキビ畑拡大による森林伐採などの環境への悪影響や、食料を燃料として利用することへの倫理的な課題を抱えていることも事実です。また、バイオエタノールはガソリンに比べて熱量が小さいため、エンジンのような高い動力を必要とする用途には適しません。そもそもバイオエタノールが「燃料」としての機能を十分にもつのかも疑問が残ります。

このような現状のもと、我々は藻類バイオマスだけが、将来的に経済性の見込めるバイオ燃料であると考えています。その秘訣は、藻類バイオマスは、燃料と燃料以外の用途の物を同時に生み出せることにあります。

藻類バイオマスは、植物バイオマスに比べて高い生産性を持ち、土地を選ばず、食料とのバッティングもない、燃料生産に理想的なバイオマスとして注目されています。それにもかかわらず、藻類バイオ燃料に焦点を絞った会社が倒産してしまっているのは、現状の藻類バイオマスの生産コストが高すぎることにあります。

この生産コストの高さは、ひとえに大量培養技術の未熟さに起因しています。現在産業利用されている微生物がほぼ育種されているのと同様に、藻類も産業化に向けて増殖速度向上や工業化に適した性質の付与などの育種が絶対に必要となります。しかし、育種さえすれば大量培養できるわけではありません。例えば、藻類を培養するための水槽の形や安価でよく育つための肥料の設計、大量の藻類を安定的に培養する管理方法など、燃料に使えるほどの低い生産コストを目指すには解決すべき課題が多く残っています。

藻類バイオマスは油以外にもタンパク質や色素を含んでいるので、低価格帯の燃料と高価格帯の物質を同時に生産することができます。このため、我々を含む多くの藻類ベンチャーは将来の燃料生産を念頭に起きつつも、始めに高価格帯の食品用途や色素用途として経済的に成立する事業を行いながら、燃料生産に向けた大量培養技術の研究開発を進めていくという戦略をとっています。生産コストを現在の10分の1まで下げることができれば価格競争力を持つ燃料が提供できるようになるとみています。生産コストを抑えるには藻類をどこで生産するかも重要な要素です。残念ながら、日本国内は日照量が少ない上、土地代、建設費なども高く、今の段階では燃料生産予定地にするには難しいです。

現在、我々は生産コストを10分の1に下げることを目指して2つの新しい培養システムの研究開発を進めているところです。

1つ目は開放系オープンポンドという従来の池を作る方法です。雑菌や雑藻の多い開放環境で単一の藻類を培養することは非常に高い技術を要しますが、建設費用が最も安いので燃料用の大量培養には欠かせない方法です。我々は、重油相当の油が生産できるが培養が難しい藻類ボツリオコッカス(Botryococcus braunii)の屋外大量培養技術を開発するため、2011年に株式会社IHIと有限会社Gene & Genetechnologyと共にIHI NeoG Algae合同会社を設立し技術開発を開始、2012年から2016年のNEDO委託事業にて開放環境での単一藻類の培養に成功しました。

2015年に公開した、バイオ燃料用微細藻類(ボツリオコッカス)の屋外大規模培養の様子

2つ目は閉鎖型フォトバイオリアクター(PBR)です。現在、熱帯地域においてこの閉鎖型PBRを用いて培養を行っています。熱帯地域は日照量が多すぎるため藻類の培養管理が難しい環境ですが、有効に利用できれば藻類の生産性を大幅に高められる地域でもあります。熱帯地域で安価な資材を使って開発したPBRを用いて高い生産性が出せるチームは、現在世界で我々だけです。

2019年に公開した、熱帯地域最大級の三次元型藻類培養設備の様子

藻類バイオマスを安価で大量に生産できるようになれば、燃料だけでなく多くの持続可能な産業を生み出すことができるようなると考えています。大量培養技術が成熟すれば日本でも資源を生み出すことが可能となるはずです。

藻類の未来を信じて、 ちとせグループを引き続き応援していただければ幸いです。

当面、化石燃料と比較すると藻類バイオ燃料の価格は高い。
しかし、再生可能燃料の含有義務付けが進めば、使用状況は変わってくるかもしれません。
将来的には藻類バイオ燃料の価格を化石燃料の代替となるレベルにまで落とせるよう、今後も大量培養技術を磨き続けてゆきます。

▷私達の藻類プロジェクトに関しては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
ちとせの藻ヂカラ[前編] -ちとせはなぜ藻類プロジェクトに取り組むのか?-
ちとせの藻ヂカラ[中編] -ちとせの藻類プロジェクト-
ちとせの藻ヂカラ[後編] -ちとせの武器、3つの藻ヂカラ-