
世界中から多くの人が集まるとされる大阪・関西万博で、日本館ファームエリアのテーマに藻類が選ばれました。これは、日本が世界に向けて「自分たちはこの技術で頑張りますよ ! 」と宣言したのだと理解しました。そして、MATSURIを率いるわたしたち、ちとせ研究所はこれまで積み上げてきた藻類技術を国から認められ、藻類の技術監修を任せていただけることになったのです。これは本当に嬉しいことですし、責任をもってこの役割を果たしたいと思っています。
ショーウィンドウの向こう側の未来
今まさに、多くの仲間たちが額に汗をにじませながら、藻類を原料とした製品の開発に挑んでいます。藻類が主役のファームエリアでは、藻類の面白さや可能性を展示を通じて紹介していますが、循環型ものづくりがテーマのファクトリーエリアでは、さらに一歩進んで「藻類からどんなものが作れるのか」、「それらが未来の生活にどう関わってくるのか」を想像できる場を作りたいと考えました。これまで心血注いで育ててきた藻類と、そこから生まれた製品を万博という大舞台に送り出せることは本当に誇らしい気持ちです。ぜひ、日本館ファクトリーエリアに足を運んでいただき、藻類が支える未来を展示ショーウィンドウの向こう側に感じていただければと思います。

握った拳を開くとき
これまで私たちMATSURIが一緒に活動してきた相手は、企業人や専門家、研究者など、いわゆる「玄人」で、みんな藻類のことが好きな人たちでした。「藻っていいよね」「ウンウン」と仲間うちで語り合っていたものが、万博というものすごいパワーで一気に外の世界に展開されることになります。
そもそも藻類が大好きな人たちなんて、世間から見れば多分ちょっと変わった人たちなんです。それを外の社会に展開して「当たり前のもの」として受け入れて貰えるようになるにはこれから先もたくさんのハードルがあるのだと思います。でも、万博の準備を進める中で、社内のメンバー自身が「自分たちの研究や開発が、未来の社会にどんな形で貢献できるのか?」を改めて深く考えるようになりました。これは大きな収穫だと感じています。
MATSURIの1人ひとりが拳の中に固く握りしめている「世界を救うのは藻類だ」という信念を、日本館へ来てくれた皆さんには特別に見せてさしあげようと思います。日本館の藻類展示を通じて、私たちの信念に共感してくれた人が1人でも多くいたらいいなと思います。

化石資源の時代から、循環するバイオの時代
私たちが暮らす現代社会では、資源を掘って、加工して、使い切って、廃棄する。そんな一方通行の仕組みが主流です。しかし化石資源には当然、限りがあります。人類がこの先も豊かに生きていくには、そんな一方通行から抜けだし、世の中の物の流れをぐるぐると回る循環型に変えていく必要があると考えています。
その鍵を握るのが、地球に惜しみなく降り注ぐ太陽光。そして、その太陽光を存分に活用できるのが藻類です。藻類は光合成で太陽のエネルギーを蓄えて、色々な物質を生み出します。そこから私たち人間は燃料、樹脂、食品、化粧品、医薬品などを作り出すことができます。藻類の力を借りれば、物質も、エネルギーも、CO₂も循環する仕組みができあがるのです。
そんな藻類をフル活用するために、MATSURIを率いるちとせ研究所は、マレーシアに世界最大級の藻類生産施設「CHITOSE Carbon Capture Central (C4)」を作りました※。ここでは、赤道付近ならではの強い太陽光と、隣の火力発電所から供給されるCO₂を活用し日々大量の藻類を育てています。
その藻類は、MATSURIに参加する仲間たちの知恵やアイディアで燃料や食品、化粧品など、色々な姿に形を変えます。そしてMATSURIの仲間には金融機関や教育機関、自治体などもいて、こうした製品の可能性をもっと広く社会に届ける活動も一緒に進めています。MATSURIは、光合成を活用した循環を社会に組み込もうとする人たちの集まりなのです。
※ NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のバイオジェット燃料生産技術開発事業の成果によるものです。

日の当たる場所へ
これまで我が子のように藻類を愛でてきた私たちですが、きっと世間一般では、藻類なんて「秋冬のプールに浮かぶ緑のドロドロ」ぐらいのイメージなのでしょう・・・(涙)しかし、そんな藻類にも日の目を見る機会がやってきました。だからこれを機に知ってほしい。藻類って凄いんです!
【圧倒的な物質生産効率】
陸上植物よりも光合成から物質を生み出す力が断然優れていて、例えば、オイルの収量はパーム油の2倍以上、タンパク質の収量は大豆の16倍以上です。
【少ない水で育つ】
藻類は水中で育つので、大量の水が必要だというイメージがありますが、実は農業や畜産よりずっと少ない水で生産することが可能です。
【土がいらない】
水と光があれば育つため、土壌を必要とせず、農業利用が難しい砂漠や荒地、耕作放棄地でも育ちます。
地球全体で食糧不足が深刻になるといわれるこれからの時代、藻類は本当に大きな可能性を秘めているのです。万博をきっかけに、これまで人知れず輝いていた藻類の魅力がたくさんの人に伝わり、社会で重要な役割を担う存在になればいいなと期待しています。太陽の光を浴びてぐんぐん成長する藻類そのもののように、万博というスポットライトを浴びて藻類が多くの人の目に触れ、いつかは藻類を基盤とした技術が当たり前に暮らしを支える存在になることを夢見ています。
良い循環を千年後まで届ける
日本館では「循環」がキーワードです。でもそこで立ち止まらず「良い循環とは何か」について考えてみたいと思います。私たちが暮らしていくにはエネルギーが欠かせません。そしてその大部分は太陽光から来ています。MATSURIは、藻類の力を借りてこの太陽光をフル活用して社会に組み込んでいくことを目指しています。
ただ残念ながら、一見して環境に「良さそうな」方法でも、そのエネルギーを取り出すために、それ以上のエネルギーを費やしてしまう例が実は多く存在します。重要なのは循環することではなく、「良い」循環を作ることです。
しかし、改善点があること、知らないことがあるというのは、希望だと思います。石油がなくなるとか、森が減っていくとか、食べるものがなくなるとか、目を覆いたい事実も世の中にあるけれど、万策尽きたわけじゃない。人類にやれることはたくさんあります。
今日現在、藻類が人々の暮らしに大きな影響を及ぼしているとはまだまだ言えないでしょう。しかし万博を機に藻類が注目され、人や資金、技術が集まれば、もっと効率的に良い循環を作れるようになります。そうすれば、物の価格は下がり、藻類由来の製品が日常に広がることで、石油に頼らず、森は森のまま残り、誰もがお腹をすかせることのない未来を手繰り寄せることができるはずです。
その未来がどうなるのかは、今、私たちがどれだけ本気でこの事業に向き合えるかにかかっています。もしかすると「失われた30年」と言われた日本が、また強くなるチャンスなのかもしれない。今はまだ「千年先まで安泰だ」と言い切ることはできないけれど、今と千年後が地続きで繋がっていることは事実です。ぜひ皆さんには、藻類がリアルタイムで世の中を良くしていく様を見届けて、(そしてそれだけじゃなくて)MATSURIを一緒に盛り上げていただければと思っています。

光合成革命
「産業革命」や「IT革命」といった出来事は、歴史の教科書にも登場する世界を一変させた大きな転換点です。IT革命によって、IT技術の恩恵を受けたのは、パソコンや携帯電話だけではありません。それはスマホや家電、インフラなど日常のあらゆるものに浸透していきました。私たちMATSURIが思い描く未来も、それと同じような構造を持っています。それは、光合成産業を作るのではなく、あらゆる産業が光合成に支えられる未来です。
私たちが目指すのは、石油に頼らず、持続可能な豊かさを手に入れることができる社会です。だって、いくらサステナブルでも不便であれば敬遠されてしまいますし、美味しいものも我慢したくありません。だからこそ、MATSURIは今、使えば使うほどCO₂が減る化粧品やペットボトルといった、新しい価値観を持つ製品の実現にも挑戦しています。
こんな未来を想像してみてください。そこでは、藻類が人々のお腹を満たし、美容に貢献し、衣類として温もりを届け、ジェット機を飛ばしています。人々が光合成を基盤とした社会で暮らし、持続可能な形で豊かさを享受しています。
そして、その未来から振り返った時に「藻類の可能性が世に爆発的に広まったのは、2025年大阪・関西万博からだった」と語られる日が来たら面白いなと思います。それは「産業革命、IT革命に次ぐ光合成革命を日本企業が主導した」と歴史に刻まれるような出来事かもしれません。
今回の日本館の展示では、MATSURIパートナーである日本を代表する企業が中心となり作り上げました。この展示を通じて、藻類に下支えされる未来図が単なる藻類オタクの夢物語ではなく、ガラス1枚向こう側にまで迫っていることを、来場者の皆さんに実感していただければと願っています!