「藻」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか？池に漂う緑色の物体、あるいは昆布やワカメといったお馴染みの海藻？
今、そんな藻類（そうるい）が、未来の暮らしを支える素材として注目されています。2025年大阪・関西万博の日本館では、パビリオン全体の3分の1が藻類をテーマとした展示で構成されており、ちとせグループが主導するバイオエコノミー推進プロジェクト「MATSURI」も一部展示を手がけています。
MATSURIは、バイオを基点とした社会の実現を追求する産業横断型の共創プロジェクトであり、その一環として藻類産業の構築にも取り組んでいます。そんなMATSURIがプロデュースしたのが「『藻』のもの by MATSURI」。藻類を素材にしたアパレル、化粧品、食品、塗料など、さまざまな「藻の物」が一堂に並びます。
本記事では「『藻』のもの by MATSURI」の中でも、とりわけ日本人にとってなじみ深い主食、お米をテーマにした「大地の紬」に焦点を当てます。テーブルマークが提案するのは、緑がかった容器のパックごはんと、米粒型のユニークなおにぎりです。
いずれも、未来の食卓を想像してつくられた、現時点ではまだ存在しない架空の商品。緑のパックごはんや米粒型のおにぎりという少し風変わりな見た目には、どんな想いが込められているのでしょうか？
今回お話を伺った方
村田 奈津実さん（テーブルマーク 戦略本部 マーケティング戦略部 家庭用第三チーム）
身近なごはんに、藻の力を
実は、今回特別に制作したパックごはんの容器には、微細藻類を練り込んだ素材が使われています。おにぎりも、わかめごはんを思わせるような微細藻類入りのごはんと、微細藻類由来の海苔をまとった姿をイメージしてつくられました。この商品に使用を想定されている微細藻類「スピルリナ」は、タンパク質、植物性色素、ミネラル、食物繊維、ビタミンなど60種類の栄養素を含みます。さらに、微細藻類は少ない水で、農業利用が難しい土地でも生産できるため、陸上植物や畜産と比較しても生産時の環境負荷が小さいことから、未来の食材として世界的にも注目を集めています。こうした栄養価の高さとサステナビリティを両立した素材を、身近な形で提案すること。それが「大地の紬」に込められたメッセージのひとつです。
食と環境をつなぐ、企業としての責任
今回の展示「大地の紬」には、これまでテーブルマークが大切にしてきた環境への配慮と、食を通じた社会との関わりが反映されています。主力商品の冷凍麺やパックごはんをはじめ、テーブルマークの商品はいずれも豊かな土壌が育んだ大地のめぐみ。そんな彼らにとって、気候変動や資源枯渇といった課題は他人事ではありません。
実際に販売しているパックごはんの銘柄米シリーズでも、環境負荷を減らす取り組みとして、お米を原料としたプラスチック素材が包材に使われるなど、自然との調和を意識した工夫が続けられてきました。そしてその延長にあるのが、今回の展示「大地の紬」です。微細藻類を活用した容器は、未来の資源としての可能性を探る試みです。
「あたりまえ」をつくってきた30年と、その先へ
「大地の紬」の着想の源となったのは、今年で発売30周年を迎えるテーブルマークのパックごはん。発売当初、「21世紀のごはん」というビジョンを掲げ、まだ一般的ではなかったパックごはんを日常の食卓に浸透させようと挑戦しました。「いつか炊飯器がなくなる時代がくるかもしれない」。そんな想像を背景に、当時は非常食として買われることが多かった商品を、日常の選択肢へと育てていきました。
今では、炊飯器を持たない家庭や、忙しい日々の中で手軽に食事を済ませたい人にとってもパックごはんは欠かせない存在となっています。なぜここまで親しまれる存在になっていったのか。その背景には、時代やライフスタイルの変化に寄り添いながら、進化を続けてきた姿勢があります。
例えば、お客様により一層ご満足いただけるよう、おいしさの改良や安全性への対策など、見えないところで継続的に行ってきた工夫は数えきれません。銘柄米シリーズでは、銘柄によって異なるお米のかたさ、食感、味わいをパッケージにも表示をしたのも、そんな工夫のひとつ。銘柄選びの参考になるだけでなく、日々の食べ比べの楽しさも生み出しています。今日はコシヒカリ、明日はゆめぴりか。自分の好みや気分に合わせてお米を選べるという自由さもうれしいですよね。
このように、日々食卓の豊かさを支える仕掛けが積み重ねられてきたからこそ、今のパックごはんがあります。テーブルマークが掲げる「食事をうれしく、食卓をたのしく。」というパーパスは、まさにそうした積み重ねの一つひとつに息づいているのかもしれません。
こうして、非常食から日常食へ、さらに楽しさを備えた食文化へと発展してきたパックごはん。その30年の歩みの延長線上にあるのが、「次の当たり前」として提案される「大地の紬」です。
「うれしい」と「たのしい」が続く未来のために
「大地の紬」は、パックごはんという「これまでの当たり前」を支えてきたテーブルマークが、「これからの当たり前」を模索する中で生まれた展示です。時代とともに変化する暮らしや価値観に寄り添いながら、食の豊かさをどう守り、育てていくか。その姿勢が万博という未来を語る舞台に結実しました。
「環境に優しいから選ぶというよりは、おいしく食べて、気がついたら環境にも優しかった。そんな日常を目指していきたいです。」
村田さんの言葉には、食卓の豊かさと環境への配慮が、無理なく添い合う未来をつくりたいという想いが感じられます。環境への配慮が「特別な選択」ではなく、「うれしい」「たのしい」といった日常の延長にある未来。それは MATSURI が描く社会像とも通じています。
日本の食卓に寄り添ってきた30年の経験と、未来へのまなざしが織りなす「大地の紬」。これからの「当たり前」を育てていくのは、展示の前に立つ私たち一人ひとりです。では、あなたが願う未来の食卓は、どんな風景でしょうか？
（執筆・鈴木瑞穂／今野夏穂）
